第44回 新しいリーダー像の嘘と真実                   



 大衆は、リーダーを求める。困難や試練の時代にあれば、より強力なリーダーを求める。

 有史以来、人々は、リーダーを必要とし、リーダーを養成することを集団活動の一つの柱とさえしてきた。それが、教育という形となって現在に至る。

 つまり、教育とは、そもそも、リーダーを養成するために、人々が必要不可欠のものとして考案した、社会を維持するシステムの一つだ。

 自然災害や脅威から人々を守り、被災者を救済し、脅威への対策を講じる。対峙する敵から人々を守るために、軍を養成し、武器を開発し、時として、人々のより安定した生活のために、縄張りを広げるため、戦いに臨む。

 人々の生活を維持し、成長させるために、狩猟の技術を高め、畜産や農業といった安定した食糧供給のシステムを構築する。

 そのために、リーダーを養成するための教育を必要とした。また、リーダーの指示や意図を理解できる市民を誕生させるためにも、教育を必要とした。

 未成熟な社会にあって、リーダーに求められる役割は、自然の変化を読む気象学や天文学、地政学の知識であり、それら情報の収集能力の高さと分析力、そして、迅速な決断と行動だった。

 なぜなら、未成熟な社会において、行動と決断が集団の生存や雌雄を決する生命線だったからである。

 集団の長として、他者の意見に左右されない、明確なビジョンを持ち、ときとして、独裁的な力で、人々を従わせる。その強さがリーダーの不可欠の要素であると考えられたし、人々にあったリーダー像もそうしたものだった。

 だが、社会が成熟し、大衆が市民として成熟し、多様な意見を発信するようになると、単に独裁的手法だけでは、集団をまとめ、一つの意志に結集させることが難しくなった。

 また、国境が曖昧となり、多国間の距離が交通通信手段や物流の発展によって、小さくなると、自分たちの集団の営為が、世界規模のつながりを持ち、単に自分たち集団の意思決定、つまり、リーダーの即断的な行動や決断だけでは、導き得ない時代を迎えた。

 強過ぎるリーダーは、多国間交渉において、自論を展開するだけで、国際協調の視野を持てず、孤立する危険と隣り合わせとなったからだ。

 ところが、大衆は、それでもリーダーを求める。行動と決断が容易ではない世界、国、時代に直面し、即断実行が思うにまかせない状態にストレスを感じるようになったからだ。

 この数年で、世界のパラダイムは大きく変った。とりわけ、9.11以後、世界は、これまでのようなリーダーシップ、つまり、ブッシュに代表される、アメリカ的一国主義のリーダー像が破綻したことを学んだ。

 即断実行の危険性、一つの安易な選択が世界をテロの恐怖に巻き込み、それに付随して、膨大な軍事費によって世界経済が破綻する姿を見た。サプライムローンなど、物の生産では追いつけない経済破綻を金融資本主義という実体のない経済運用でごまかすことの危うさを知った。

 にもかからわらず、人々はリーダーを求め続ける。いや、今日、人々が求めているのでは、リーダーではなく、ヒーローに違いない。

 パラダイムの変化に対応できず、破綻した、ジョン・ウェイン的リーダーをリーダーとして認めていないにもかかわらず、人々は、さっそうと馬に跨り、劣勢にある世界の、国の、社会の状況を変えてくれるジョン・ウェインを探している。

 変化のためには、緻密な議論の積み重ねがいる。マグナムやスミス&ウェストで、ドンパチやれば、問題は返ってこじれ、抜き差しならぬ状況になることがわかっているからだ。

それが、旧来のリーダーたちがやってしまった過ちを繰り返さないための知恵だ。しかし、大衆には、それがまどろこしい。結論を求め、結論に至る過程を度返しする。

 オバマが颯爽とアメリカ大統領となり、世界は新たなヒーローの登場を期待した。しかし、現実にヒーローなどいはしない。いるのは、リーダーに過ぎない。しかも、そのリーダーが、新しいパラダイムを生きる知恵を持ったリーダーであるなら、これまでの即断即効による過ちを繰り返さないリーダーだ。

 アメリカ経済は依然建て直しの岐路にある。アフガン問題は即解決できない課題を抱え、イラクの悲惨は、イエメンに広がった。それに対する世論の反響にオロオロし、ノーベル平和賞受賞式で武力行使の正当性を主張せざるえなくなる。

 日本においても、鳩山首相の普天間基地問題への対応を時間の引き延ばしと批判する声があがる。

 人々には、まだ理解できていないのだ。これからのリーダーが演じるべき役割は、短兵急に結論を出すことではない。

 生活困窮者への支援や高齢者、女性、子ども、病人や障害を持つ人々への救済は、即効性が必要だ。しかし、優先順位の中で、いま何をすべきで、何に時間をかけるべきかの選択を冷静にできなければ、大きな見落としと禍根を残すことになりかねない。

 それが、いま、人々が直面している現実なのだ。一足飛びに、不況から脱出も、アフガンの終結もない。そのジレンマの中で、ジレンマからくるストレスに負けず、緻密な議論の向こうに、合意点や着地点を見つけ出すことの方が遥かに、リーダーシップがいる。

 人々がヒーロー像を捨て、現実を直視したとき、いま求められるリーダー像が何なのかに気づく。

 さもなくば、またもやどこかでヒーローが現われ、戦前、戦間期のファシズムが蘇る。


リストへ                   ページトップへ▲